1.人生会議(ACP)とは?自分らしい最期のための話し合い
人生会議=「もしもの備え」を話し合うこと
「人生会議(ACP)」とは、もしものときに備えて、自分が望む医療やケアについて前もって考え、家族や医療・ケアチームと繰り返し話し合い、共有しておく取り組みのことです。
終活といえば相続や葬儀の準備を想像するかもしれませんが、人生会議は「どんな最期を迎えたいか」まで踏み込んだ会話です。
なぜ今、話すことが大切なのか?(救急の現場から)
救急の現場では、本人の意思確認が難しいまま延命治療が始まることや治療中断が決まるケースも多くあります。その際、家族間で「本人は望んでいたのかどうか」で意見が分かれ、迷いや後悔につながります。
だからこそ、“話せるうちに”話し合っておくことが重要なのです。

2.人生会議の目的|本人の意思を明確にし、家族の負担を減らそう
望む医療やケアの明確化
たとえば、「延命治療はしない」「自然に最期を迎えたい」など、本人の意思を前もって言葉にしておくことで、いざというときの選択がスムーズになります。
家族の心理的負担・葛藤を減らす
判断を家族に一任すると、「これでよかったのか」という迷いが残ることも。人生会議は家族にとっての“心の支え”にもなります。
コロナ禍以降、話し合いの重要性が増している理由
長期間会えていなかった家族との再会の機会に、「もしものとき」について話しておくことも一つの備えです。
3.延命治療とは?人工呼吸器・心肺蘇生・経管栄養の内容と実際
延命治療と聞くと、心臓マッサージや人工呼吸器をイメージされる方も多いと思います。
心肺蘇生(CPR)とその限界
心臓が止まった際に行う心臓マッサージ。「心臓マッサージをしてもらったから助かりあました!!」というエピソードを聞き、無事助かるというイメージを持つ人も多いと思いますが、高齢者では肋骨骨折や脳へのダメージを伴う可能性が高く、元の生活に戻れないこともあります。
人工呼吸器と抜管困難・合併症のリスク
自力で呼吸ができなくなると、口からチューブを挿入し、人工呼吸器で呼吸をサポートします。
若年者で治療を終えた場合は助かる可能性も高いです。しかし高齢者では抜管(チューブを外す)できないまま寝たきりになるリスクが高く、肺炎などの合併症も起こりやすくなります。また、人工呼吸器使用中には鎮静剤を使用するため寝たきりになります。そうすると一気に筋力は低下します。抜管ができたとしても元通りに歩くことができるようになる方は少ないです。
経管栄養(経鼻チューブ・胃ろう)の違いと選択肢
- 経鼻チューブ:鼻から胃に管を通して栄養を入れる方法。短期的に使用されます。
- 胃ろう:腹部から直接胃に管を挿入する方法。抜けにくく、長期的に使用されます。
どちらも違和感や不快感があり、本人の生活の質(QOL)に影響します。
4.延命治療による体への負担と高齢者への影響
延命治療について聞いたうえで、改めて行った場合はどうなるのかを考えてみましょう。80代、90代では体力の回復が難しく、延命治療がかえって苦痛を増やすこともあります。延命は「命を長くする治療」であって、「快適にする治療」ではない点に注意が必要です。
治療後の生活の変化(寝たきり・肺炎・痛み)
「人生の最後は自然に迎えたい」との考える方が、心臓が止まった時に心臓マッサージを受け目が覚めると、肋骨が折れてしまっており呼吸をするたびに痛い。」延命処置により、長期の入院や寝たきり、人工呼吸器による不快感、痛みを伴う状態で日常生活が制限されることも多くなります。
本人が望まない治療がもたらす結果
「自然に逝きたい」と思っていた人に対して無理な処置が行われれば、本人にとっても家族にとっても“後悔”が残る結果になります。
5.延命治療を行わない選択とは?治療中止との違いとケアの内容
「延命治療をしない=何もしない」ではない
「延命治療は行わない」と選んでも、痛みや苦しみを和らげる緩和ケアは行われます。
たとえば、
- 痛みがあれば鎮痛薬、
- 発熱があれば解熱剤
- 呼吸困難があれば酸素投与
など、本人が穏やかに過ごせるようにするケアは十分に受けられます。
延命を目的とせず、快適さと尊厳を重視したケアが緩和ケアです。
終末期でもできる医療はたくさんあります。
本人の尊厳を守る治療方針の一つ
延命治療を拒否することは、生きることを諦めることではありません。自分らしい最期を迎えるための、一つの選択肢です。
延命治療をしないからと言って、何もしないということは誤解をしてほしくないところです。
6.まとめ|“もしも”に備えて今できることは家族との対話
救急搬送の現場で求められる即決の現実
当たり前のことを言いますが、救急搬送される人は今日救急搬送されると分かっている人はいません。その時には話せない状態かもしれません。救急の場では、話し合いの時間が十分にとれず、医療チームが家族の判断をすぐに求められます。そのとき、「本人の意思」が共有されていれば判断は迅速です。
家族の意見の食い違いを防ぐために
「延命を望んでいた」「いや望んでいなかった」――このような食い違いでの家族仲が悪くなることは本人は望んでいません。事前に話し合っておくことで防ぎましょう。
後悔のない選択をするために、話し合おう
人生会議は、“話しにくい”テーマかもしれません。
ですが、「話し合っておけばよかった」と後悔する家族を救う力があります。
あなたや家族が望む医療について、一度じっくり話してみませんか?
コメント
ここ数年、新型コロナウイルスの影響で家族と会う機会が減り、大切な話をする時間も少なくなっているかもしれません。延命治療について考えることは、本人だけでなく家族にとっても重要なテーマです。救急搬送の際に慌てずに済むよう、普段から家族と話し合っておくことが大切だと思います。もしもの時に備えて、自分の意思をしっかりと伝えておくことが、家族の負担を軽くすることにつながるでしょう。あなたは、延命治療について家族と話し合ったことがありますか?